大判例

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松山地方裁判所 昭和36年(わ)121号 判決

本店

愛媛県南宇和郡御荘町中浦六二八

大濱漁業株式会社

(旧商号大浜漁業株式会社)

右代表者代表取締役

濱田素司

本籍並びに住居

同県同郡同町中浦一、〇四〇の一

元会社役員

濱田憲三

明治四三年三月五日生

右の者等に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は検察官武内徳文出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告会社を判示第一の罪につき罰金二〇〇万円に

同第二の罪につき罰金三二〇万円に

同第三の罪につき罰金三四〇万円に

被告人を懲役一年にそれぞれ処する。

ただし被告人濱田憲三に対して本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は被告人濱田憲三がその祖父の代より個人営業で漁業を経営していたものを基礎に昭和二五年一〇月一六日大浜漁業株式会社として設立し(同四〇年一一月一八日大濱漁業株式会社と商号を更正する。)愛媛県南宇和郡御荘町中浦六二八番地に本店を、下関市大和町一〇番地、長崎市元船町三丁目一七番地にそれぞれ支店(同三九年二月一四日廃止)を設け水産物の漁獲加工、販売および鉄工機械器具の製作修繕等を営業目的とする資本金三百万円、決算期毎年四月三〇日なる同族会社であり、主に下関港を根拠地として出漁しその漁獲は下関中央魚市場、下関魚市場、長崎魚市場、福岡魚市場、地元御荘町等において売上げていたものであり、被告人濱田憲三は創立当初から同三八年三月二〇日まで右会社の代表取締役として被告会社の業務一切を統轄掌理していたものであるが、被告会社の業務に関し、その所得を秘匿して法人税を逋脱することを企て、下関魚市場、下関中央魚市場、長崎魚市場、福岡魚市場、ならびに地元の御荘町等において水揚げした魚獲魚類の一部を架空船名を用いて売上げを行い被告会社以外の者の販売であるように装い、その売上代金を架空人名義を用いて山口銀行漁港支店、十八銀行魚市場支店に預金をし、これを架空名義を用いて伊予銀行御荘支店へ送金し、さらにこれを同店をはじめ、四国銀行船越支店、同宇和島支店、愛媛相互銀行城辺支店、伊予銀行郡中支店等へ架空名義を用いて定期預金、通知預金、普通預金等にして隠匿するなどの不正の方法により所得の一部を秘匿した上

第一、昭和三二年四月一日より昭和三三年三月三一日迄の事業年度において金一七、五四一、一〇七円(その法人税額金六、九六六、四四〇円)の所得があつたにも拘らず法人税を逋脱する意図で前記方法で所得の一部を隠匿し、昭和三三年五月三一日宇和島市宇和島税務署において同税務署長に対し、同事業年度の所得は金二、〇一〇、二六六円(その法人税額金七五四、〇八〇円)である旨虚偽の申告をなし、もつて右事業年度の法人税金六、二一二、三六〇円を逋脱し

第二、昭和三三年四月一日より昭和三四年三月三一日迄の事業年度において金二九、九七六、八九二円(その法人税額金一一、二九一、一八〇円)の所得があつたにも拘らず法人税を逋脱する意図で前記方法で所得の一部を隠匿し、昭和三四年六月一日宇和島市宇和島税務署において同税務署長に対し、同事業年度の所得金三、三〇五、七六〇円(その法人税額金一、一五六、一六〇円)である旨虚偽の申告をなし、さらに同年一〇月二日同税務署において同税務署長に対し同事業年度の所得は金三、三〇九、一六〇円(その法人税額金一、一五七、四五〇円)である旨虚偽の修正申告をなし、もつて右事業年度の法人税金一〇、一三三、七三〇円)を逋脱し

第三、昭和三四年四月一日より昭和三五年三月三一日迄の事業年度において金三〇、二六七、三八三円(その法人税額金一一、四〇一、五七〇円)の所得があつたにも拘らず法人税を逋脱する意図で前記方法で所得の一部を隠匿し、昭和三五年五月三一日宇和島市宇和島税務署において同税務署長に対し、同事業年度の所得は金一、七二八、〇〇〇円(その法人税額金五七〇、二四〇円)である旨虚偽の申告をなし、もつて右事業年度の法人税金一〇、八三一、三三〇円を逋脱し

たものである。

(証拠の標目)

判示事実すべてにつき

一、大蔵事務官の告発書

一、第一回公判調書中被告人の当公判廷における供述部分

一、被告人の検察官に対する供述調書五通および大蔵事務官に対する質問てん末書一八通

一、浜田一の検察官に対する供述調書二通および大蔵事務官に対する質問てん末書五通

一、浜田正雄の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書六通

一、西山徹郎、東岡福夫、水野信男、池田鉄夫、岸智恵子、丸田元、新山菊松、田代俊男、安本辰男、久野勝文、山本政雄、二神清志(二通)、清家昇、島原義行(二通)、松川勝、遠藤貞男、村上照重(二通)、増田行雄、藤崎重敏、宮本三郎、山内一郎の検察官に対する各供述調書

一、七瀬久、清家昇の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、都築末広外三名作成の普通預金元帳写

一、三輪文彦作成の通知預金記入帳写

一、岩田光子外二名作成の諸元帳写

一、石崎卓作成の手形貸付金元帳写二通、および証書貸付金元帳写二通

一、渡辺一衛作成の担保品保管元帳写

一、湯浅洋一郎作成の相互掛金元帳写

一、宮岡忠男作成の貸付金元帳写

一、関谷通夫作成の諸元帳写

一、法人税決議書

一、山口県下関水産事務局長宮内武雄作成の入港船調査報告書

一、松山地方法務局城辺出張所登記官作成の大濱漁業株式会社登記簿謄本

一、濱田憲三作成の証明書

一、大濱漁業株式会社定款

第一の事実につき

一、森田哲夫の検察官に対する供述調書

一、今竹武雄の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、森田吉一及び水津観熊作成の各上申書

一、小松崎正治作成の確認書と題する書面およびこれに添付の仕切書

一、名古屋国税局調査査察部長作成の嘱託調査の報告についてと題する書面

一、安本辰男、玉井節子作成の各普通預金元帳写

一、玉井節子外一名、安田匡克作成の各諸元帳写

一、仕切書六冊(証第一号、第三号、第四号、第七号、第八号、第一九号)

一、太陽漁具株式会社売原簿(証第一四号)

一、四国銀行船越支店発行山田丑太郎名義普通預金通帳(証第一〇号)

判示第二の事実につき

一、木村満の昭和三五年六月二六日付および阿部富夫の同年一〇月一〇日付ならびに中村喜代子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、安岡宏、大東淳(二通)、安岡高一、浜田菊雄、内田晴雄作成の各上申書

一、玉井節子作成の普通預金元帳写

一、玉井節子外一名、安田匡克作成の各諸元帳写

一、岩田光子作成の大黒定期預金割増金支払証明

一、仕切書一〇冊(証第二号、第三号、第五号、第六号、第七号、第八号、第一六号、第一七号、第一八号、第二三号)

一、太陽漁具株式会社売原簿(証第一四号)

一、四国銀行船越支店発行山田丑太郎名義普通預金通帳(証第一一号)

一、手帳(証第一五号)

判示第三の事実について

一、阿部富夫の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書四通

一、木村満の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一、森田哲夫の検察官に対する供述調書

一、阿部富夫、森田哲夫、島田善太郎、井伊康典、大塚善夫、西村悦代、野地ひろ子、内田晴雄、山内弘子、浜田菊雄、安岡高一、大東淳(二通)作成の各上申書

一、亀井広吉作成の売上簿写

一、石崎卓、玉井節子作成の各普通預金元帳写

一、玉井節子外一名、安田匡克、永井菫一、関谷通夫作成の各諸元帳写

一、北島義彦作成の普通預金証明書

一、渡辺一衛作成の定期預金記入帳写

一、富岡郁子作成の送金証明書

一、北島義彦作成の通知預金元帳写

一、宮崎美代子作成の普通預金元帳写二通

一、清家昇作成の証明書

一、清家昇作成の預金明細書

一、仕切書七冊(証第三号、第六号、第七号、第九号、第一九号、第二〇号、第二一号)

一、長崎魚市場株式会社作成の仕切書写

一、四国銀行船越支店発行山田丑太郎名義普通預金通帳(証第一一号)

一、東京関係雑紙片(証第一二号)

一、メモ(証第一三号)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告会社の判示第一、二、三の各所為はいずれも昭和四〇年法律第三四号法人税法附則第一九条により同法により改正前の法人税法で、昭和三七年法律第四五号附則第一一項により同法により改正前の法人税法第四八条第一項、第五一条第一項に各該当するから同法第五二条に従い各その所定罰金額の範囲内で、被告会社を判示第一の罪につき罰金二〇〇万円に、判示第二の罪につき罰金三二〇万円、判示第三の罪につき罰金三四〇万円にそれぞれ処すべく被告人濱田憲三の判示第一、二、三の各所為はいずれも前記各改正前の法人税法第四八条第一項に各該当するところ、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるからその所定刑中いずれも懲役刑を選択し、同法第四七条本文、第一〇条により、犯情の最も重いと認められる判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、被告人を懲役一年に処し、なお情状に照らして被告人に対しては同法第二五条第一項により、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の事情)

本件の情状につき考察するに

一、被告会社および被告人に不利な点

本件各犯行は判示の如く計算的な犯行で逋脱税額は昭和三二年度約金六二〇万円、同三三年度約一、〇一三万円、同三四年度約一、〇八三万円の多額に達し、憲法に規定せられた国民の最大義務の一つである納税義務に違背し、国家の課税権を著しく侵害した責任は軽くないものがある。

二、被告会社および被告人に有利な点

(一)  被告会社は自己資本が僅少であると共に資本の蓄積もなかつたので、被告人は被告会社の将来特にその業務が極めて危険を件い、かつ収益が不安であるところから漁船の大型化をはかり遠洋漁業を営み営業の安定化をはかるために、漁船の建造資金を得る目的で本件犯行に出たものであり、その間の事情に掬むべき点なしとしないこと。

(二)  右犯行によつて得た利益はすべて右目的のために銀行預金となし、これを担保として銀行より融資をうけて漁船(鉄鋼船)建造資金となし、被告人の私利私欲を図つていないこと。

(三)  本件犯行が発覚するや、深くその非を悔い、査察捜査の当初から当公判廷にいたるまで犯行を素直に認め、爾後、ガラス張りの経理を実行し、改悛の情が顕著であること。

(四)  被告会社は本件脱税の本税、利子税、過少申告加算税の全額を既に完済していること。

(五)  被告会社は着実に業績をあげ、日本国の食生活改善に奉仕していること。

以上の諸点および本件審理に現われた被告会社および被告人に有利不利なその他の諸事情を総合勘案し主文のとおり刑を科するのを相当と認めた次第である。

(裁判長裁判官 矢野伊吉 裁判官 伊藤滋夫 裁判官 友添郁夫)

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